11月の扉
高楼方子
(…そうだ、私ここで、今まではやったことのない、何かすてきなことを、ちゃんとやろう。)
(中略)
爽子は、ぐっと胸をおさえた。決意とともに、何か清らかな喜びが、同時にこみあげてきた。
(本文より)
引っ越すことになった中学生の爽子は、学期末までの2ヶ月だけという期限付きで、十一月荘で下宿暮らしを始める。
どこか『特別な』くらしのなかで、爽子は自分も特別なことをしょうと、十一月荘の住人やそこで出会った事件をもとに物語を書き始めた。
「時計坂の家」の作者による長編3作目。
時計坂より比較的甘い雰囲気のこの作品ですが、夢見がちなようで、どこかさめた視線を持った、甘過ぎない上品なお菓子と言った味わいです。
ふつうなら、『そんなのあるわけないだろー』と叫びたくなる展開が、嫌味なく読めてしまうのは、そのさめた視線の所為かも知れない。
爽子は、本好きの子にありがちなちょっとさめた、ありきたりを恐れる子供。その考え方は、中学生にしてはかなり皮肉っぽく醒めたものに思いますが、「どこか違うより高い何か」になりたいと言う気持ちは自分も中学の頃もっていたなと思い出す。
私の好きな、入れ子形式の構成もまたよし。
寒くなってきた今の季節、毎晩少しずつ読みたい本です。あと、耳をすませばとか好きなひとにもお薦め。
表紙は前回と同じく妹の千葉史子さん。本文の挿し絵は高楼さん。時計坂より、おとなしめの絵ですが、物語の味を壊さない、いい意味の軽さをもってています。
<2003年9月氓W日>