カラフル
森 絵都 理論社
「縄文時代の魂が、二万八千円のスニーカー盗まれて泣くかよ、あほ」
「う……うるせえ！縄文時代の人間が埴輪ぬすまれて泣くのといっしょだ。流行りのマークが入った、貴重な埴輪なんだ」
「埴輪は大和時代からだ、縄文時代にはまだない。やっぱおまえ、一度死んで生まれ変わったほうがいいな」
（本文より）
本題とは殆ど関係ないのだけどおかしかったので、上の会話を抜粋（笑）。流行りのマークってどんなのだろうね。
こんな感じの小気味よい語り口でどんどん読めてしまうのはさすが。２時間ほど夢中で読みました。何気ない言葉なんだけど、そのぶん後でガンと効いてきて、最後の方はもう泣きそうでした。泣きそうっていうと、安っぽく思われるかも知れませんが、私が涙もろいだけで安くないです。
言葉の旨さだけじゃなく、ストーリーもちゃんとエンターテイメントしていて、次々と見えるそれぞれの人間の色がまさにカラフルな話。主要な登場人物は、８人！と多いのだけどそれぞれがしっかりと書き分けられていて、流石と思ってしまいました。これ書くために、全編読み返しながらあらためてその筆力に唸ってます。字だってそんなに小さくない。文章の量はそんなに多くないのにその密度のなんて濃いこと！
と、再読時はひとしきり、技術に圧倒されてましたが、読んでいて、文章がどう、テーマがどうっていうよりまず、「面白かった！」と思える話です。まあ、そうじゃない話はここでは紹介しないけど。
誰もイマイチかっこわるくて、情けない。だいたい天使の名前がプラプラってのがもうやる気ない（笑）。でも、そんな登場人物がすごくいきいきして必ず誰か一人には共感できるはず。ひろかとか、母親のキャラクターが好きでした。小説には、わりと定番のテーマなのだけど、語りと人物のイキのよさが、そんなことを些細な問題にしています。
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